イギリスの年の瀬テレビ番組で「蛍の光」を聴く
今年ももう間もなく、日本中の学生が涙をこらえながら歌う、「蛍の光」の季節になりますね。
イギリスではこの曲、年末、大晦日の曲・新年の曲として歌われるんです。こちらでは一足お先に「蛍の光」の季節が過ぎました。
今回の年越しは、こちらの記事で紹介したホグマニーイベントに参加し、記事内でも言及した「ド派手な花火」をご紹介しようと思っていたのですが、残念ながら、悪天候でイベントが中止になってしまいました。
なので、おうちでおそばを食べて、その後は、イギリス版紅白とでも言いましょうか「Jools Holland Hootenanny」を観ながらカウントダウンして年を越しました。
※この番組内で、演者はが男女別チームに分かれたりということはないので、「イギリス版CDTV ライブ」と呼ぶか迷いましたが、年末の国民的歌番という意味で紅白が相応しかろうとしてみました。個人的に。
カウントダウンが終わって新年を迎えた瞬間から歌うのが定番です。
ハッピーニューイヤー!という声を皮切りに、バッグパイプと呼ばれるスコットランド伝統の楽器の厳粛な旋律での蛍の光が始まり、1番2番と曲が進み、サビを繰り返していくうちに、リズムも盛り上がり、華やかに軽快になっていきます。
そして、人々は隣の人と手をとりあい、体を曲に委ねながら合唱するのです。
私達の思う蛍の光とはかなり雰囲気が違います。蛍の光ってこんなにリズミカルに演奏できるんだ。っていう衝撃。
今年のカウントダウンではソウルフルなシンガー(Louise Clare Marshall)が、ブラスセクション付きフルバンドとバックパイプとともに、テンションぶちあげなパフォーマンスをしていました。
こちらは2023年からの映像ですが、後半にかけて蛍の光ってこんな盛り上がるのねっていうアレンジ!
蛍の光の原曲
こうしてここで歌われる「蛍の光」は、「蛍の光」として知られているのではなく、
「オールド・ラング・サイン」(Auld Lang Syne)というスコットランド民謡として、知られています。
実はこのスコットランド民謡のほうがオリジナルで、日本人なら誰でも歌える、日本人の心に棲む曲と言っても過言ではない、(過言かも)蛍の光は、いわば日本語アレンジ版なのです!
というのは有名な話でしょうか?
「オールド・ラング・サイン」の作詞は1788年にロバート・バーンズによってされたとしていますが、作曲者は不明です。
日本へやってきたのは100年弱後の1881年。稲垣千穎という教育者によって日本語の歌詞が充てられ、小学生の合唱曲として、教育現場に現れました。
原曲である「オールド・ラング・サイン」、日本語にするならば「古き良き日」「懐かしき日」とでもなりましょうか。
その哀愁を運ぶメロディに相応しく、二人でお花を摘んだね、川遊びをしたよね、昔を思いながら飲もうではないか、と望郷の詞がのせられています。
スコットランド系移民がアメリカやカナダへ渡っていった際、移民先の国で同郷との絆を深めるのに、この歌の家族や友情、故郷の風景を歌った詞は一役買ったのでした、
蛍の光の歌詞が、これから別れていくのにふさわしく聞こえるのに対し、「オールド・ラング・サイン」は、すでに別れたものを偲んでいるようにも聞こえます。
どうしてこの、望郷の曲が年の瀬の歌になり、日本では卒業の曲、また閉店の曲になったのでしょうか?
世界に広がった蛍の光原曲
1881年には日本語版として誕生していた「蛍の光」は、海軍学校の卒業式で歌われるなどもあり、19世紀の後半には卒業式の曲として定番となっていました。
一方で、「オールド・ラング・サイン」は18世紀後半、電話が発明された際には、デモンストレーションに使われ、世界初の蓄音機に録音された曲の一つにもなり、
この頃から、新年の曲として使われ始めました。
20世紀初期の頃には、多くのアメリカ映画で流れたことにより、新年の曲としてのイメージと知名度を確実にしていきました。
大晦日のクライマックスの定番曲として定着したのは、1929年から1977年までの毎年新年に、ラジオやテレビ番組でこの曲を演奏しつづけた、ガイ・ロンバルドというジャズミュージシャンのおかげとのこと。
新年の曲として有名な曲が日本に渡って来たのではなく、「蛍の光」は「オールド・ラング・サイン」から別の道を歩んだ歌だったのですね。
なぜ閉店の曲になったか
「蛍の光」が閉店時の定番の曲になった。というと実は誤解があります。実は、あの閉店時よく聴かれる曲と、蛍の曲は別の曲なのです。
閉店の曲は「別れのワルツ」という曲で、よく聞いてみると4/4拍子の蛍の光、閉店の曲は3/4拍子で、言われてみれば違うねえ、とお気づきになるかと思います。しかし似ている。
それもそのはず、これも原曲は「オールド・ラング・サイン」。1949年に「哀愁」(Waterloo Bridge)という映画に登場した「オールド・ラング・サイン」ですが、ダンスに合わせて3拍子に編曲され、その曲のレコードが出る際に邦題「別れのワルツ」が付きました。
このダンスシーンが、閉店後のお店だったことから、閉店の曲として定着したのだとか。
世界で名誉の知名度。
「蛍の光」原曲は、南北戦争時には望郷や和解の気持ちを育てるとして、歌うことを禁ぜられるも、和解の署名の際には、今こそ必要、と歌われたり、第一次世界大戦中のクリスマスのための一時休戦時にイギリス兵とドイツ兵がともに歌ったなど、強力なエピソードとともに確固たる知名度を国際的に築いています。
原曲はスコットランド語ですが、世界中で英語で歌われているのはもちろん、日本語版だけでなく、色んな国でその国の言語に翻訳されたり、編曲されたりしています。韓国では「オールド・ラング・サイン」のメロディを基にした曲が、国家になったほど。
インド・バングラディシュ版
ギリシャ版
そして、英語版。ちゃっかり、歌っているのは、わたくし。
最後に余談なんですけど、イギリス版紅白とご紹介した「Jools Holland Hootenanny」、年末のカウントダウン番組なんですけど、なんと事前収録なんですって。
事実が発覚したとき、イギリスの皆さんは大変ショックだったそうですよ。私も紅白が事前収録だと知らされたらと思うと、、、。
しかし、あの、新年を迎えるテンション前撮りで出せるのすごいなあ。
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