緊急車両を三回呼んだ夏の夜のお話 ②

Japanese food Tazaki Yutaka Harvest Campaign

その日は珍しく夫不在の夜であった。

こんなチャンス滅多にない。

ちまたで流行りの『地面師たち』の続きが早く見たくて見たくてリモコンに手をやった。

時計の針は21時10分を指していた。

と、ベッドに行ったはずの下2人がトントントンと降りてきた。さっき起こったお向かいの火事騒動で興奮してるのだろうか。

「ママ、外がうるさくて眠れない。誰か喧嘩してる」

1番上の17歳も部屋から出てきた。

家の前で誰かが脅されてる… 女の子が助けを求めて叫んでる…」

我が家はalleywayの横に建っている。

alleywayとは車やバイクは通れない程の狭い路地のこと。イギリスでは庭と庭の間や塀と塀の隙間を小道として使っている)

さっきの火事のせいで閉め切っている窓越しからでもはっきりと聞こえる。独特の言い回し、swearing と言われる言葉のシャワー。

カーテンを頭から被りこっそり覗いてみる。

Alleywayに人影が3つ。街灯がないのではっきり見えないが激しく動いている様。

非ネイティブのママには英語なのか?そうでないのか?何を言ってるかさっぱり分からない。

「何言ってるか分かる?」

うーん。ネイティブでないっぽい。すごい訛りがあるけど英語。喋り方はティーンか20代くらいかな?。助けてとか、誰かに電話しろとか、誘拐、拉致とか言ってる。。。」

あぁ…今日は何て日だ!夫のいない時に限ってこれかい!

と、

ドス、ドス、ドス、ドスン、ドス、ドス、どーーーーん!

我が家のフェンスに体当たりしてる音と同時に叫び声が。

警察呼ぶべき?呼んでも良いレベルよね?今度こそ迷っている場合ではない!緊急車両は999!

勇ましく電話を取った。

「警察お願いします」

「私は○○に住んでるくりのしんと言います。」

じぶんの声が震えている。と同時にハンパない脇汗を感じた。

「今、家の横で‥‥」と話していると

ドンドンドン!ドンドンドン!ドン!ドン!

誰かがすごい勢いでドアを叩いている。

ピンポーン!ピンポーン!ドンドンドン!

もしや助けを求めてうちに来た?

危険と鉢合わせる事やお巡りさんのお世話になる事無く生きてきた人生であった。

が、ここ一番の恐怖に陥る。

「すみません!誰かがドアを叩いてるんですけど~泣。怖いんですけど、どーしましょう。。。」

電話口のお巡りさんにすがりつく。

「セキュリティカメラついてますか?誰か見られますか?」

「そんなモダンなものは付いてません!ビクトリアンハウスなんです〜泣」

と、テンパってとんちんかんな事を言ってしまった…恥ずかしすぎる

「どこかから様子見られますか?ドアは絶対開けないでください」

子供達に「絶対部屋から出ないよ!中から鍵かけて!」と忠告し、一階の窓の閉めきったカーテンの隙間からそぉーつと玄関を覗いてみた。

ま、眩しい!目が開けられない

携帯電話についてる懐中電灯の様なもので顔を照らされている。

あぁ、もう逃げられない

と、小柄な若い女性が立っている。

彼女の胸につけている小型カメラの様なものから一筋の光が顔を照らす。

「ハーイ!開けてもらえますか?」

「警察です」

ん?状況が把握できない。警察に電話した途端に警察登場?

電話口のお巡りさんに「お巡りさんです!ここにお巡りさんがなぜかいます!私達、助かりましたぁ〜泣」

「ヤッタァー!!お巡りさんが来てくれたー!よかったぁー!!」

子供達が後ろで拍手喝采!

(おぃっ!部屋から出るなと言っただろ。)

「あっ、それうちの同僚ですね。行ってたんですね~。じゃ、切ります。ガチァ。」

早っ!と言うか、

お巡りさん、仲間同士で報連相しないんかい!

その後そのお巡りさんからは

「何か話し声を聞いたか?内容は?何時頃?」

「姿を見たか?どんな外見か?」等々。事細かな事情を聴取されるもお巡りさんは終始満面の笑顔。

「いったい何があったんですか!めっちゃ怖かったんですけど、しかも今日に限って夫がいないんです!」

「全くもって怖がらなくて大丈夫よ!何〜にも起こってないから安心してください。何もないから心配しないでー♪」

と言い、無線でゴニョゴニョゴニョと何か話しながら猛ダッシュで家の前の道を走り去った。

その時の彼女の真剣な顔!

何も無い訳ないやろー!!

と言うか、うちの夫はこんな時にどこで何をしてるんだー!

ソワソワして落ち着かない。今夜起こった事を早く夫に話したい。

ガチャ。門を開ける音。

やっと夫が帰ってきた…

時計の針は0時00分になろうとしていた。

「もう、どこで何してたん?ほんまに大変やったんやから!」

「シィー!今警察に電話してる。一刻を争う。なかなか危険が迫る状況だ。話、あとで聞くから」

左手に殴り書かれたボロボロの紙切れを握り締めた夫が今度は警察に電話している。

次回に続く

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About the Author: くりのしん

イギリス南東部在住。3児の母。我が家の発達凸凹ちゃんに宇宙へ連れていかれる日々。オタ活と空手で絶賛ストレス発散中。

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