The Proms 2019

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こんにちは。9月に入り途端に涼しくなりましたね。私は先日、ロンドン夏の風物詩、The Proms に久しぶりに行ってまいりました。今年のプロムスもあと2日で終わってしまうので、今更ではあるんですが。。。

The Promsとは

プロムスとは、主にロイヤル・アルバート・ホールで毎年7月中旬から9月中旬にかけて行われる、クラシック音楽のコンサート・シリーズです。期間中は毎晩コンサートが開かれ、世界中から集まる著名な演奏家たちの演奏が楽しめます。近年はクラシックだけに限らず様々なジャンルの音楽も演奏されていますし、子供のための無料コンサートなど、いろんな趣向が凝らされています。

クラシックなのに立ち見

プロムス名物と言えば、アリーナの立ち見でしょう。これをPromming と言うそうです。ロイヤル・アルバート・ホールは日本武道館のような円形で、真ん中がアリーナになっています。プロムス期間中はこのアリーナに座席がありません。なので立ち見、もしくは体育座りピクニック状態になるのです。立ち見とは言え、運よく前列に陣取ることが出来れば、演奏家がすぐ目の前というポジションを得ることも可能です。

アリーナの他に最上階のギャラリーというエリアも同じく立ち見です。どちらもチケットは当日販売のみ。お値段はたったの6ポンドです!つまり、プロムスという演奏会は、

  • 思いついたときにいつでも行ける
  • 高いお金を払わなくてもいい
  • 演奏家を目の前で見るチャンスがある

という、とっても魅力的な音楽祭だと私は思います。私が初めてプロムスに行ったときは、今より更に貧乏な学生でしたので、もちろん当日券(当時は5ポンド)のアリーナで見ました。立ち見は前方3列くらいまでなら良く見えますが、それより後ろになると、身長の低い日本人女子にはステージが全く見えません。見えないのに立っているのも辛いので床に座りこんでしまう人が結構います。中には座って本を読んでいたり、寝ていたりする人も。こんな肩ひじ張らないクラシック音楽の楽しみ方がものすごく新鮮でした。さすがヨーロッパだと思いました。

Last Night of the Proms

最終夜のプロムスのコンサートは大人気で、テレビで生中継もされます。チケットはくじ引きで、しかも通常のプロムスのコンサートのチケットを5公演以上買っていないと、くじ引きに参加さえさせてもらえないという厳しさです。何でそこまでの人気があるのか私にはちょっと理解出来ませんが。。。

毎年Last Nightというと、前半はポピュラーな曲が演奏され、後半はイギリス万歳な選曲と決まっていて、エルガーの威風堂々、聖歌のエルサレム、イギリス国歌などお約束の曲が演奏され、最後に観客みんなで蛍の光を歌って締めます。会場はユニオン・ジャックで溢れています。イギリス各地で同時にProms in the park という野外イベントもありますが、ここでもやはり似たような感じで、大英帝国万歳な雰囲気のようです。今まさに全然万歳じゃないタイミングですが、やっぱり今年も同じようになることでしょう。 今年は9月14日なので、興味のある方はテレビでご覧になってみて下さい。

常連さん

プロムスには常連さんが多くいて常にアリーナの前方を陣取っています。彼らは大抵シーズン・パスを持っているので、アリーナへの入場はいつでも可能ですが、良い場所を確保するためには朝から並ばないといけません。それをプロムス期間中ほぼ毎日やっているようです。しかも何年も何十年も続けているという、大変珍しい方達です。

インターバル休憩のときには、常連さん達で声を揃えて何かメッセージ(今回は募金の呼びかけ)を言ったりします。Last Night で定番曲になると振り付けが出てきたりします。かなりキモイです。関わりたくないです。(すいません、私が個人的には知らないだけで、きっと良い方達だろうとは思うのですが。)

ユジャ・ワンを見たい

これまでプロムスの特徴をざっとお話してきましたが、もちろん私は毎年行っているわけではありません。今回も何年ぶりかで行ったのですが、その理由は、現代で最も注目されている若手ピアニストのひとり、ユジャ・ワン (Yuja Wang)が出演するからでした。プログラムはラフマニノフのピアノ協奏曲3番と、ブラームスの交響曲2番でした。ユジャ・ワンはクラシックのピアニストらしからぬ肌を露出した過激な衣装で何かと話題にされがちですが、実は人間業とは思えぬ超絶技巧をいとも自然に軽やかに弾きこなし、キレッキレの音楽が体から洪水のように溢れ出る物凄い才能を持ったピアニストです。私も最初は偏見を持っていましたが、ネットで彼女の演奏を聴いたら、全て吹っ飛んでしまいました。

チケット入手方法

そんな人気者のユジャ・ワンが出る日のチケットは即完売になるだろうと予想されましたので、事前準備をしっかりと行いました。チケットはオンラインで買えますが、75公演あるプロムスの、ほとんど全てが同日同時刻に発売されるのです。ウェブサイトがパンク状態になるのは必至。

そこで、出来るだけ簡単にチケットが入手出来るよう、事前に自分の個人情報と行きたいコンサートと座席の種類を登録をしておくことが出来ます。特に複数コンサートのチケットを取りたい人には、登録しておくと一度にオーダー出来るので便利です。

登録を済ませてあれば、あとはチケット発売日の発売時刻にパソコンに向かい、ウェブサイトにアクセスします。1秒でも早いとアクセス出来ず、1分前からスタンバイしてリロードボタンを押し続けるものの、時刻を過ぎたときには、「只今混雑しております。」と出ます。まあ、そんなものです。めげずにリロードを押し続けること10分くらいだったかな、ようやく「只今〇万人待ちです。」と表示され、待ち行列の部屋に入り込むことが出来ました。(数字は忘れたけど、千か万単位だったと思う)この部屋に入れたら、リロードはしてはいけません。このまま自分の番が来るまで画面には触らずに待ちます。

こういう手順なので、携帯からのアクセスは難しいと思います。また、パソコンの画面が自動でスリープ状態になる設定も外しておかなければいけません。

そのまま待つこと1時間半、ようやくチケット購入画面が現れました。この時点ではもう迷っている暇はなかったと思います。事前に登録しておいた自分の希望に一番近いものが既に割り当てられているので、それにOKボタンを押していくだけで予約完了です。

感想

そんな苦労して(その昔、チケットぴあに早朝から並んだことを思えば、こんなの苦労とは言えませんがね~)ようやく入手したユジャ・ワン公演。知人らにも良くチケットが取れたねえと驚かれました。しかし、私の座席はステージ裏のChoir席の西側。 Choir席とは、第九など大勢のコーラス隊が参加するコンサートのときに、コーラス隊が立つ場所で、舞台に比較的近い割にお値段が手頃なのでお得感があります。また指揮者が正面を向いてくれているので、指揮者の振り方や表情などを見たい人には絶好の席です。運が良ければ、ピアニストの指がばっちり見れる場所に座れるのですが、私の席がある西側は、ちょうどグランド・ピアノの蓋でピアニストも見えないし、音も遮られてしまう場所でした。しかもかなり上段だったので、ステージからの距離もありました。

そもそも、このロイヤル・アルバート・ホールというのは、クラシックのコンサートに最適なホールではなく、キャパはバービカン・ホール(1,156人)やフェスティバル・ホール(2,500人)などよりかなり大きい5,544人!普通のホールのChoir席とは訳が違うのでした。ちなみに日本武道館のキャパは14,471人だそうです。

そんなわけで、せっかく行ったのですが、ピアノの音がイマイチ良く届かず、オケの音に隠れてしまうこともありで、ユジャ・ワンの演奏を肌で感じる体験は出来ませんでした。 後半の交響曲はオケの音は十分に聴こえるし、指揮者も良く見えて良かったですが。 やはりプロムスで独奏楽器の音を楽しみたいなら、がんばってアリーナで立ち見で聴くか、奮発して値段の高い座席で聴くべきだなと思いました。

私が最後にアリーナで見たプロムスは2013年、日本人ピアニストの辻井信行さんがこれまたラフマニノフのピアノ協奏曲2番を演奏したときでした。この時の体験は、私の人生でも忘れられない感動でした。私が人生で初めて「ブラボー!」と叫んだ日でもあります。

恐るべき偶然

コンサートの内容とは関係ないことですが、この日恐るべき偶然がありました。私とダンナが座っていた座席の隣に、私のピアノ仲間の友人がやって来たのです。きっと仲間の誰かは来ているだろうとは思っていましたが、つい10日ほど前までサマースクールで一緒に過ごしていたその人が来ることは全く知りませんでした。それがキャパが5千以上の会場で隣の席になるなんて、その確率は計算出来ませんが、ほとんど奇跡、怖いくらいです。

お勧め動画

最後に私のお勧めしたいPromsのネット動画をご紹介したいと思います。長いプロムスの歴史の中には、数々の名演や名シーンがあるとは思いますが、私の知る限りの中では、これが一番の名シーンです。これは演奏ではなくてスピーチなのですが、2年前に偶然テレビで流れていたのを見て、とても感動しました。

スピーチをしているのは、アルゼンチン出身のユダヤ人、名ピアニストであり、名指揮者でもあるダニエル・バレンボイムです。彼は若いころ、今は亡きイギリスの伝説の名チェリスト、ジャクリーヌ・デュ・プレと結婚していたこともあり、イギリスには深い縁がある音楽家です。このスピーチをボリス・ジョンソンは見たことあるのでしょうか。見ても彼の心には何も響かないかもしれませんね。このスピーチの後に間髪入れずにエルガーが始まるところは、感動で震えてしまいます。

いつものように、私の全くの独断と偏見で、イギリスを代表する文化イベントについて語ってしまいましたが、いかがでしたでしょうか。来年の夏はプロムスに行ってみようと思った方のご参考になれば幸いです。チケットの販売開始は5月頃ですので、準備はお早めに!

追記(9月14日)

ここでプロムスについて書いてしまった手前、なんとなく責任感を感じて、今年のLast Night of the Promsのテレビ中継を、途中からですが真面目に鑑賞してみました。そして感動してしまいました。素晴らしいショーでした。最後は一緒に蛍の光を歌ってしまいました。皮肉って書いてしまって申し訳ありません。

演奏は素晴らしいし、ロイヤル・アルバート・ホールと野外の4か所の会場を結んだ舞台と客席の一体感も圧巻です。しかし一番感動したのは、会場がほとんどEUの旗を持っている人たちで溢れていたことです。圧倒的に英国旗ユニオンジャックよりも多かったです。そして舞台の指揮台にも掛けられていて、歌手の人が持ち上げて大きく振ったのは、 Rainbow Pride Flagでした。英国を誇りにしつつ、ヨーロッパとの共存を願い、多様な価値観を尊重しようというメッセージが伝わってきたようで、とても嬉しくなりました。

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About the Author: ふあにゃん

趣味でピアノを弾いていたら知人から教えてほしいと頼まれたのがきっかけで、いつのまにか職業になってました。東京都出身、在英20年超、ロンドンの南の端っこ在住、常に貧乏。好きなテレビ番組は「5時に夢中!」。

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